7月末にローレンス・バークレー国立研究所チャイナ・エナジー・ユニット主催の国際ワークショップに参加してきました。このワークショップでは中国の建築環境やエネルギー消費に関する議論が行われました。アメリカで中国に関する国際会議を実施すること自体,アメリカにとって中国がいかに重要な国であるか,ということを如実に示しています。
昨今,米中貿易摩擦がホットイシューとなっておりますが,アメリカにとって中国は最大の輸入相手国であり,電子製品にしても衣料品にしても,中国からの輸入なくしては生活が成り立たないことはアメリカ人の多くが認識しているところです。中国と中長期的にどのように付き合っていくのかということを真剣かつ冷静に考えるアメリカ人は少なくありません。
学術・文化の面で中国は米国に大いに貢献しています。2016〜2017年のアメリカにおける中国人留学生の数は35万人,外国人留学生の32.5%を占めるに至っています。この中からはアメリカの先端分野を支える人材が陸続と輩出されており,産業の発展に大いに貢献しています。ニューヨーク・メトロポリタン美術館で毎年開催されるエキシビション,Met Galaの2015年のテーマは"China: Through the Looking Glass"でした。中国の芸術が西洋ファッションに与えた影響が紹介され,美術・ファッション界の人々の中国に対する認識を新たにしました。このように,経済のみならず,学術・産業・文化の面でも中国はアメリカにおいてプレゼンスを強めています。
米中の関係が強まる中,気になるのはアメリカにおける日本の存在感です。"Cool Japan"と銘打って,ソフトパワー戦略を展開しているところですが,中国のプレゼンスがアメリカの社会経済の深い部分まで浸透しているのに比べると表層的なものにとどまっているように感じます。
西日本MOTコンソーシアムメールマガジン第179号(2018年8月)より転載
先日,山口県ひとづくり財団・環境学習講座に講師として招かれ,再生可能エネルギーの現状について講義を行い,施設見学に参加しました。
先月の本欄で述べましたように,東日本大震災以降,わが国では再生可能エネルギーに対する意識が高まり,2012年7月に固定価格買取制度(FIT)が始まってからは,再生可能エネルギー,とくに太陽光発電設備の導入が進みました。
環境学習講座では県内のメガソーラー施設の実例として,中国電力が運営している宇部太陽光発電所を見学しました。定格出力3000kWつまり3メガワット級の施設で,その広大さには圧倒されました。しかし,今,県内ではこのサイズを大きく超える,10から20メガワット級の発電所も登場しております。国内の太陽光発電の急速な普及には改めて驚かされます。
太陽光発電の普及とともに進展しているのが太陽光パネルの価格下落です。太陽光発電パネルの累積出荷量が1000倍になるたびに,パネルの単位出力(1W)あたりの価格は,10分の1になっています。このような経験則をスワンソンの法則と言います。再生可能エネルギーへの関心にスワンソンの法則が相俟ってさらに安価な蓄電技術が確立すれば,住宅の自家発電・自家消費という状況も夢ではなくなるでしょう。
西日本MOTコンソーシアムメールマガジン第178号(2018年7月)より転載
先日,「環境やまぐち推進会議」に参加してきました。
東日本大震災以降,わが国全体で再生可能エネルギー導入に対する意識が高まりました。そして,2012年7月に固定価格買取制度(FIT)がスタートして以降,再生可能エネルギー,とくに太陽光発電設備の導入が進展しました。今では日本各地に大規模な太陽光発電所(メガソーラー)が建設されており,また新築戸建て住宅の4軒に1軒は屋根の上に太陽光パネルを設置している状況です。
このように太陽光発電を中心として普及が進んだ再生可能エネルギーですが,今,新たな局面を迎えています。再生可能エネルギーの急激な増加に対応できなくなった一部の電力会社が受け入れを停止したり,2019年度末までにFIT契約が終了する家庭が50万件に達する見込みとなったり(2019年問題)と,売電に依存した再エネ普及モデルは終焉を迎えつつあります。
こうした問題に対する解決策として「環境やまぐち推進会議」で注目を集めたのが,エネルギーの貯留,つまり蓄エネでした。住宅用太陽光発電でいえば,売電依存から自家消費へと転換するためには家庭用の据え置き型蓄電池を設置したり,電気自動車と連携させたり(V2HやH2V)という蓄エネの仕組みを導入したりすることが,2019年問題への解決策になるだろうということです。
蓄エネが真の解決策になるのか,また,蓄エネがビジネスとして成立するのかどうか。技術と経営の両面から追及してみたいと思います。
西日本MOTコンソーシアムメールマガジン第177号(2018年6月)より転載
山口学大学院技術経営研究科はこの春,14年目を迎えることとなりました。
本来であれば,10年目や干支が一周する12年目に何らかの周年行事を催すべきところですが,忙しさに紛れて失念し,この春になって急に10年以上経過したことに思い至った次第です。
本研究科は広島と福岡において社会人を対象とした技術経営教育を行っておりますが,僅かながらも認知度も上がってきた様子で,今年度は例年よりも多くの社会人学生を迎えることができました。
宇部教室(10月入学・全科目英語による授業)においてもこれまでで最大の数の留学生を迎えることができる見込みです。
先日,ある若いビジネス・リーダーから「ビジネスの世界ではグローバル化とテクノロジー,この二つのキーワードが不可欠だ」という話を聞きました。本研究科はこの二つのキーワードを担う教育機関であると自負しております。今後も引き続き,技術と経営の複合的な視点でビジネスの問題に取り組むリーダーを養成するべく,教育に邁進していきたいと思います。
西日本MOTコンソーシアムメールマガジン第176号(2018年5月)より転載
去る3月17日(土),山口大学常盤キャンパスにおいて「山口大学・京都大学合同シンポジウム Why MBA Now? Why MOT Now?」が開催されました。
このシンポジウムは文部科学省「先導的経営人材養成機能強化促進委託事業」の成果報告会であり,「経営系専門職大学院」の役割や機能強化ならびに経営人材・技術経営人材の養成をテーマに,ビジネス分野代表機関の京都大学と技術経営分野代表機関の山口大学が共同主催したものです。
当日は林芳正文部科学大臣がご臨席され,基調講演をされました。林大臣のご講演に続き,「獺祭」蔵元の旭酒造会長の桜井博志氏のご講演もありました。
林大臣は、大学や企業関係者など約130人を前に、「超スマート社会(Society5.0)の実現に向けて」と題した基調講演において、高度専門職業人としてのグローバル経営人材や地域の産業を担う経営人材の養成を担う大学の役割の重要性について語られ、期待を示されました。
本研究科としては,林大臣のご期待に応えるべく,今後も社会経済のグローバル化を見据えながら,地域の産業界からの要請に応える教育研究を推進してまいります。
西日本MOTコンソーシアムメールマガジン第175号(2018年4月)より転載
前号に引き続き,産業界から見た,MOT専門職大学院の位置づけや役割について書かせていただきます。
現在,山口大学大学院技術経営研究科は文部科学省「高度専門職業人養成機能強化促進委託事業」の一環として,「MOT教育コアカリキュラム」の内容を大学院教育に適切に反映するための方策群について検討しております。
産業界の代表者からは,「共通言語」としての技術経営の知識は重要で,これを体系的に学ぶ場所としてMOT専門職大学院が必要であるというご意見が寄せられております。
その一方で,知識・スキルの習得以上にMOT専門職大学院に期待されているのが,企業内では得られないような経験をする場の提供です。まず,異業種交流による人脈/ネットワークづくりや意識向上の場として期待されていることが挙げ られます。
その他,限られた時間の中で特定課題研究や修士論文といった成果物を仕上げるという,いわば「修羅場の経験」をすることを重視するという声もありました。
企業内ではできない教育を担うということがMOT専門職大学院の役割であると再認識いたしました。
西日本MOTコンソーシアムメールマガジン第174号(2018年3月)より転載
昨年7月に本欄に書きましたように,山口大学大学院技術経営研究科は文部科学省「高度専門職業人養成機能強化促進委託事業」を受託し,「経営系専門職大学院(MOT分野)におけるコアカリキュラムの実証・改善に関する調査研究」を実施しております。この調査研究では,昨年度改定された「MOT教育コアカリキュラム」の内容を大学院教育に適切に反映するための方策群について検討しております。
現在,産業界の代表者に意見をうかがっているところですが,その中で,MOT専門職大学院の位置づけ・役割が浮き彫りになってまいりました。
まず,体系的に学ぶ場所としてMOT専門職大学院は重要だという意見がありました。特に社内に教育システムを持たない中小企業にとっては,技術経営の知識・能力・態度を身につけるきっかけ・スタートラインとしての役割を担っているとのことです。ただし,2年間で技術経営者を養成する教育が完結するわけではなく,継続的に学ぶ場が必要であるとの指摘もありました。
また,MOT専門職大学院は,既に技術経営に関する課題を持っていた社会人が,課題解決の一助として活用する場であると考えられ,その意味では「MOT教育コアカリキュラム」のように体系的な教育コンテンツが準備されていることが重要であるとの意見も寄せられました。
その他,人脈/ネットワークづくり,異業種交流の場,意識向上の場としての役割が大きいとの指摘もありました。
これらの貴重なご意見をもとに,本研究科は教育のより一層の充実を図っていきたいと考えております。
西日本MOTコンソーシアムメールマガジン第173号(2018年2月)より転載
昨年11月中旬,バンコクに拠点を持つ日系の建築設備企業を訪問しました。現地での活動概要,東南アジアの建築設備の状況など日本にいてはわからない様々な情報を得ることができましたが,特に印象に残ったのは,同社が現地における技術系人材の育成に関して課題を抱えているということです。
これまで同社では現地法人の経営や技術を担う中核人材を日本から送り込み,現地で採用した技能職を指揮指導するというやり方をとっていました。それが今では現地で採用した人々を現地法人の中核人材として育成する必要に迫られているということでした。経営も技術もわかる人材を現地でどのように育てていけば良いのか。それが課題だというわけです。
もし,他の東南アジアに拠点を持つ日系技術系企業においても同様の課題があるとすれば,東南アジアの日系技術系企業向けMOT教育の潜在需要はかなり大きいのではないかと思われます。
本研究科はマレーシアやインドネシアの有力校と提携し,現地に国際連携講座を設立しています。これらの地における日系技術系企業の中核人材の育成を国際連携講座が担うことができれば,日系企業にとっても本研究科にとっても大きなメリットとなるのではないでしょうか?と新年早々愚見を申し述べさせていだだきました。
西日本MOTコンソーシアムメールマガジン第172号(2018年1月)より転載
これまで本コラム上では,アジアにおけるMOT教育の展開について何度か話題提供をいたしました。今回は11月15日から17日にかけてタイ・チェンマイにて
行われた:
The 6th International Symposium for Asian MOT Education (ISAME)
についてお伝えいたします。
この会議ではチェンマイ大学がホストとなり,山口大学はじめMOT教育に関心を持つアジアの有力ビジネススクールの代表者が一堂に会しました。タイはアメリカを遥かに凌ぐ,起業家精神の高い国として知られております(インドに次ぎ,世界2位)。今回のシンポジウムでは,そのことを如実に表すような講演が続きました。
例えば,Nithi Foodsのマネージングディレクター・Smith Taweelerdniti氏による講演:"Trend in management of food technology"。この講演では,タイローカルの食品企業Nithi Foodsが世界に事業展開することに成功したプロセスや今後の展開が紹介されました。日本各地の中小の食品企業にとって参考になる事例だったと思います。
また,チェンマイ大学のTanyanuparb Anantana准教授による"Science park & MOT around the world"という講演もインパクトがありました。Tanyanuparb准教授はタイの新政策:"Thailand 4.0"を紹介し,タイ各地のサイエンス・パークがビジネス・イキュベーターとして"Thailand 4.0"を牽引する,という野心的なビジョン語っていました。タイの産学官連携に対する認識を新たにしました。
アジアの新興国は,今や世界経済を牽引しようという意欲に満ちております。これを実現するにあたって,キーとなるのはイノベーションであり,さらにイノベーションを駆動するMOT教育であろうと思います。
西日本MOTコンソーシアムメールマガジン第171号(2017年12月)より転載
今年,平成29年の10月中旬に,山口県の環境政策担当者とともに薩摩川内市・甑島列島に行ってまいりました。目的は,同市の再生可能エネルギー政策について説明を受け,実際の実施状況を知ることにありました。
薩摩川内市は九州電力の原子力・火力発電所が立地していることで知られていますが,同時に太陽光,風力,水力,バイオマスといった再生可能エネルギーによる発電施設,さらに大型の蓄電施設が導入された次世代エネルギー自治体としても知られています。スポーツ施設の駐車場の屋根を太陽光発電所にしたり,農業用水路に,わずか3mの落差でも発電できるらせん型水車を設置したり,というように他ではなかなか見られない事例を見ることができました。
薩摩川内市の市域には離島・甑島列島が含まれていますが,ここでは従来のディーゼル火力発電に加えて,風力,太陽光による発電,蓄電施設による電力需給の調整,電気自動車40台の導入といった社会実験が実施されています。薩摩川内市ではこうした次世代エネルギー施設巡りを産業観光にも活用しています。
現在,全国各地の自治体で再生可能エネルギーの導入が図られていますが,温暖化対策のみを目的として,環境担当部署が単独で担当している例が多くみられます。薩摩川内市の例が他の自治体の例と大きく異なる点は,再生可能エネルギーの導入を地球温暖化対策のためだけでなく,高齢者の見守り,中山間地および離島の産業振興・雇用促進といった地域の問題解決にも活用しているところです。環境・福祉・雇用・防災・その他様々な分野を横断して問題解決を図る「ポリシーミックス」を行っているところに特徴があります。
そもそも技術経営では,社会経済システム全体を見ながら,技術を効果的に利用するという考え方を持たなくてはなりません。今回訪問した薩摩川内市の事例は再生可能エネルギーという技術を利用して,地域の問題解決を図ろうとしており,技術経営の好例であると思いました。
西日本MOTコンソーシアムメールマガジン第170号(2017年11月)より転載
去る平成29年9月11日,首相官邸において「第1回人生100年時代構想会議」が開催されました。同会議には有識者として人材論や組織論で著名なリンダ・グラットン氏らが起用されるなど話題を呼びましたが,最も大事なことは,「いくつになっても学び直しができ、新しいことにチャレンジできる社会」を実現することです。これは政局がいかに変化しようとも取り組まなくてはならない課題です。
じつは「学び直し」についての議論は今に始まったことではありません。2005年に設立された弊研究科も「社会人の学び直し」を目的とした教育機関の一つです。ただし,教育機関が設立されたらそれで終わりということではなく,各教育機関は「学び直し」のニーズに応じて,教育の仕組みを更新し続けていく必要があります。
最近では文部科学大臣の諮問機関である中央教育審議会で「社会人の学び直し」の更なる推進についての議論が行われています。その議論の中で取り上げられた「社会人の大学等における学び直しの実態把握に関する調査研究」(平成28年3月文部科学省)によれば,企業の36.1%が「短期間で修了できるコースを充実させること」を求めております。また,学び直し未経験の社会人に対するアンケートによれば,37.7%が「費用が高すぎる」こと,8.7%が「1年未満の短期間で学べる教育プログラムが少ない」ことを「学び直す際の障害要因」として挙げています。
大学等の教育機関が,こうした要望のすべてに応えることは容易ではありませんが,社会・経済のニーズを踏まえながら,提供する教育の内容と仕組みの改善を図っていくことは必要であると思います。
西日本MOTコンソーシアムメールマガジン第169号(2017年10月)より転載
山口大学大学院技術経営研究科は,2008(平成20)年度からJICAの委託業務としてラオス国立大学MBAコースへの短期教員派遣を行っております。この夏も私を含め2名の教員が派遣されており,技術経営の講義を行うのはこれで9年目となります。
ラオスは後発途上国に分類されておりますが,その経済成長率は年7%前後とASEAN諸国の中でも高く,今後の発展が期待されています。
耐久消費財の所有状況に関する2015年の統計によれば,ラオス全土でバイクを所有する世帯は80.1%であるのに対し,自動車を所有する世帯は16.2%となっています。自動車の普及率が低いということは,伸びしろがあるということで,今後,経済成長に伴って,自動車の需要がますます高まると考えられます。
ここで問題になるのが,交通に係る政策や法規,また道路,信号機,駐車場などのインフラが未整備の状況で自動車が増加し続けると,大渋滞や事故など,他のASEAN諸国が辿ってきたような社会問題がラオスにおいても繰り返されるおそれがあるということです。すでに,首都ヴィエンチャンでは過去にはなかった交通渋滞や路上駐車による道路の占拠などの問題が散見されるようになっています。
技術経営では,単独の技術を開発したり導入したりするだけでは駄目で,関連技術,運営手法,社会システム全体の発展も必要であるということを教えています。この考えをラオスに応用するとすれば,自動車をいたずらに増加させるのではなく,同時並行で,道路,駐車場,各種交通制御システムの整備,公共交通機関交通の導入,交通政策および法規の充実を行わなくてはならない,ということになると思います。
ラオスで技術経営を教える場合には,日本で教える場合とは違い,社会経済状況との関連性をより重視しなくてはならない,というのが私の感想です。
西日本MOTコンソーシアムメールマガジン第168号(2017年9月)より転載
去る平成29年7月6日および7日,山口大学大学院技術経営研究科は,文部科学省ならびにアジアの有力ビジネススクールからゲストを迎え,各国の研究開発戦略についての講演会:
International Symposium for Asian MOT Education (ISAME) 2017 in Ube
を開催しました。このシンポジウムは,国立大学機能強化プロジェクト『アジアイノベーションプロデューサーの育成』事業の一環として実施されたものです。
初めに文部科学省高等教育局専門教育課専門職大学院室の大月室長からご挨拶・ご講演があり,その後,アジアの有力ビジネススクールの研究科長らによる"R&D
Roles in My Country's Industry Policy"と題した講演が行われました。
今回講演した海外ゲストスピーカーは次の4名です:
この国際会議ISAMEは昨年度から始まったもので,アジアにおける技術経営の重要性を認識し,技術経営教育の普及を図っていくための場となっております。
山口大学大学院創成科学研究科の大学院生や日本滞在中のマレーシア日本国際工科院学生等,参加者は500名を超え,大盛況となりました。当日の会場の様子などについては,次のウェブページをご覧ください: http://mot.yamaguchi-u.ac.jp/AIC/event.html#20170706
西日本MOTコンソーシアムメールマガジン第167号(2017年8月)より転載
昨年度,山口大学大学院技術経営研究科は,文部科学省から「先導的経営人材養成機能強化促進委託事業」を受託し,「MOT教育コアカリキュラム」の改定を実施しました。
今年度は,その後継事業である「高度専門職業人養成機能強化促進委託事業」を受託し,「経営系専門職大学院(MOT分野)におけるコアカリキュラムの実証・改善に関する調査研究」を実施することとなりました。この調査研究では,昨年度改定された「MOT教育コアカリキュラム」を大学院教育の中に適切に反映することを目的として,以下の作業を行うこととしております。
1年足らずの間に,これだけの内容をこなしていくのはなかなか大変なことですが,本年度末にはしかるべき成果をお見せしたいと思っております。西日本MOTコンソーシアム会員の皆様のご助力を必要とすることもあるかと思います。その折にはよろしくご協力のほどお願いいたします。
西日本MOTコンソーシアムメールマガジン第166号(2017年7月)より転載
今年度に入って,山口県内の再生可能エネルギー設備の設置・運営に関する協議に参加する機会が数回ありました。
そのうちのいくつかは太陽光発電に係るもの,またいくつかは風力発電に係るものでした。いずれにしても住民との信頼関係の構築が重要課題となっていました。
再生可能エネルギーは,温暖化防止やエネルギーの安定供給などの観点から,今,最も普及が望まれているエネルギー源です。しかし,小規模分散型のエネルギー源であり,市民の生活に極めて近いところに発電設備が設置されることから,住民と設置者との間に問題が持ち上がることがしばしばあります。
こうした問題に触れる度に強く意識するのがSTS相互作用系,科学 (Science)と技術 (Technology)と社会 (Society)の相互作用関係です。
科学と技術の関係も重要ですが,両者の一体化が進展した現在では,とりあえず科学・技術と社会の関係として議論を進めても良いでしょう。
上で述べたような再生可能エネルギーの普及が社会に与える影響は科学・技術と社会の間で生じる大きな問題の一つですが,社会への浸透の度合いから言えばもっと大きな影響力を持つ科学技術分野があります。ソーシャルメディア,AI, IoT, VR, ARなどを含む技術分野,ICTです。ICTは産業を牽引し,社会の様々な活動を効率化する技術分野として期待され,実際に結果を生み出しているわけですが,米国大統領選挙などが示しているように,今や政治の分野においても直接的で強力な影響を与え始めています。「インダストリー4.0」の到来に浮かれているわけにはいきません。
科学・技術が一般生活に広く深く浸透した現在ほど,技術者・経営者がSTS相互作用系で生じる問題についてよく検討し,対処していかなくてはならない時代はないと思います。技術者・経営者の中にそういう意識を育てていくことは技術経営(MOT)教育の役割の一つだと考えています。
西日本MOTコンソーシアムメールマガジン第165号(2017年6月)より転載
学習内容の標準化は,専門職大学院における教育の質の保証にとって不可欠です。
技術経営(MOT)分野においては,技術経営系専門職大学院協議会(MOT協議会)加盟校が平成22年3月にまとめた「MOT教育コア・カリキュラム(「平成22年度版コアカリキュラム」)」が学習内容の標準を示しており,複数のMOT専門職大学院の科目編成・認証評価において,重要な役割を果たしてきました。
しかし,それから歳月が経過し,社会・経済・科学・技術の変化に応じてコアカリキュラムを見直す必要性が生じました。そこで平成28年度,MOT協議会は,文部科学省「平成28年度・先導的経営人材養成機能強化促進委託事業」の枠組みの下,コアカリキュラムの改定作業を行うことといたしました。
改定作業は,山口大学大学院技術経営研究科が主導し,MOT協議会加盟校,産業界,関係機関から寄せられた意見を集約して,改定版コアカリキュラム(「平成28年度版コアカリキュラム」)を完成させました。
「平成28年度版コアカリキュラム」は現在,次のウェブページで公開しております:http://mot.yamaguchi-u.ac.jp/core/
MOTの教育内容にご関心のある方にはぜひご一読賜りたいと思っております。
西日本MOTコンソーシアムメールマガジン第164号(2017年5月)より転載
MOT協議会メンバー校と産業界の代表とが協力して「MOT教育コア・カリキュラム」を制定したのが,2010年3月。それから6年余りが経過し,急速なグローバル化など,社会経済の変化に合わせて技術経営教育の見直しを行う必要が生じてきました。そこで今年度から,山口大学大学院技術経営研究科が取り組み始めたのが,国内向けのカリキュラム見直しとアジア向けの標準カリキュラム制定という二つの作業です。
まず,国内向けのカリキュラム見直しについてですが,本研究科が代表となって「【文部科学省・先導的経営人材養成機能強化促進委託事業】経営系専門職大学院(MOT分野)におけるコア・カリキュラム策定に関する調査研究」を受託し,この事業の中で上記の「MOT教育コア・カリキュラム」(現カリキュラム)の改良と発展を行うことにしております。
現カリキュラムは総合領域,中核知識大項目,基礎知識項目から構成されていますが,本事業では現カリキュラムをベースに,まず総合領域について大きな改定を行う予定です。現カリキュラムでは総合領域の態様として特定課題研究だけが示されているのに対し,本事業においては,各専門職大学院が独自性を発揮したアクティブラーニングの多様な形態を例示し,また多様な形態に対応したモデル教育プログラムおよび教授方法を提示し,さらに学修全体に占める総合領域の割合を検討する予定です。
つぎにアジア向けの標準カリキュラム制定について、この6月,本研究科,バンドン工科大学,チェンマイ大学ほかアジアのビジネススクール数校をメンバーとするアジアMOTコンソーシアム(AMC)が発足しました。その下でアジアにおける技術経営教育の標準モデルを作る作業を開始しております。これも現カリキュラムをベースとしますが,各国のビジネススクールからの要望を踏まえ,ダイナミックに変貌するアジア経済に対応したものを策定することを目論んでおります。
西日本MOTコンソーシアムメールマガジン第155号(2016年8月)より転載
過去2回,本メルマガ本欄で山口大学大学院技術経営研究科(YUMOT)がラオス国立大学のMBAコースの教育支援をしていることを紹介いたしました(2009年5月8日第68号,2013年5月7日第116号)。
この教育支援は,JICAの委託プロジェクト「ラオス日本人材開発センター(LJC)・ビジネス分野活動等支援」の枠組みの中で実施されています。YUMOTからは廣畑伸雄教授と小職とがこの業務のため派遣されています。一応,今年度で終了することになっており,来年度以降の取り組みについては正式には決定しておりません。
ラオスは人口660万人の小国で,後発開発途上国に位置づけられています。しかし,この国にもグローバル化の波が押し寄せてきています。首都ヴィエンチャンを毎年訪れるたびに感じるのが自動車の増加です。数年前には見られなかった交通渋滞が発生し,また駐車場不足から路上駐車が目立つようになってきました。また,コンビニが登場し,レストランも増加しました。スマートフォンが普及し,facebookなどSNSサービスが盛んに利用されています。
このようにグローバル化の波に洗われているものの,ラオスでは様々なサービスを支えるインフラストラクチャーは未発達のままです。首都を離れると未舗装の道路ばかりになりますし,電力も不安定で,今でも時々停電が発生します。中国はそこに目をつけ,様々な利権獲得と引き換えにインフラ整備支援を行っています。
人材不足もラオス経済発達の阻害要因になっています。高度な職業人材が不足しており,日本などから企業が進出しても,優秀な労働力を確保することが困難です。前述の中国によるインフラ整備支援にしても,労働力の現地調達はしておらず,中国から何万人という技術者・労働者を送り込むというやり方をしています。
ラオスの社会・経済がグローバル化の中で自立できるようにするためには,ラオスにおける高度職業人材教育が不可欠です。ラオス国立大学MBAコースにおけるMOT教育もまたその一端を担ってきたと自負しておりますが,その効果が現れるかどうかについては,数年,数十年待たざるを得ません。
西日本MOTコンソーシアムメールマガジン第127号(2014年4月11日)より転載
以前,本メルマガ本欄で山口大学大学院技術経営研究科(YUMOT)がラオス国立大学のMBAコースの教育支援をしていることを紹介いたしました(2009年5月8日第68号)。それから4年が経過しておりますが,その間,ラオスという国,そしてMBAコースでの教育がどのように変化していったのか,これらのことについてお話ししたいと思います。
ラオス国立大学MBAコースの教育支援は,JICAの委託プロジェクト「ラオス日本人材開発センター(LJC)・ビジネス分野活動等支援」の枠組みの中で実施されています。YUMOTからは廣畑伸雄教授と小職とがこの業務のため派遣されています。
ラオスの人口は630万人。労働人口のほとんどが農業に従事しており,後発開発途上国に位置づけられています。経済規模が小さいため,インドシナ半島内でも存在感の薄い国となっていますが,首都ヴィエンチャンには確実にグローバル化の波が 押し寄せてきています。
それが最もよくわかるのが,自動車の増加です。4年の間に自動車が増加し,それまで見られなかった交通渋滞が発生するようになり,路上駐車で道がふさがるようになってきました。また,空港にタクシーが現れるようになりました。
サービス産業にも大規模な変化が生じています。コンビニができていつでも買い物ができるようになりました。証券取引所も設立されました。スマートフォンが行き渡り,人びとはfacebookやLINEを利用しています。これに比べ,製造業の成長はいまひとつです。耐久消費財,日用雑貨品など多くのものを輸入に頼っています。ラオスに進出している日系企業もありますが,山喜やミドリ安全が郊外に工場を構えている程度です。
ラオス国立大学MBAコースでMOT教育を行う場合には,こうしたラオスの実情を踏まえる必要があります。4年前にスタートした際には「日本のものづくり」を伝えることが一つの柱でした。しかし,ラオス人受講生の関心は「技術と顧客要求をマッチさせた商品づくり」よりも「技術による(サービス等の)業務効率向上」にありました。
小職は過去5回にわたり,MBAコースでMOT教育を行っておりますが,ラオス人受講生のニーズを踏まえ,教育内容を「製造」中心のものから「情報」中心のものへと変化させています。本プロジェクト終了までには,教育コンテンツおよび教育メソッドの総仕上げを行い,ラオス側教員への技術移転を完了させたいと思っております。
西日本MOTコンソーシアムメールマガジン第116号(2013年5月7日)より転載
2009年5月の本欄で「ラオス国立大学におけるMOT教育の始まり」という記事を書きました。JICAの委託業務として、ラオス国立大学(NUOL)およびラオス日本人材開発センター(LJC)が共同運営するMBAコースにおいて、山口大学大学院技術経営研究科の教員が教育の実施、教育手法および運営手法の技術移転を行っているという内容でした。この業務は現在も継続しており,廣畑伸雄教授,大島直樹准教授,そして小職がこの任にあたっております。
記事を書いた2009年時点では,経済発展の様子がさほど明確でなかったラオスの首都ヴィエンチャンでしたが,ここ数年の間に交通渋滞が発生するほどにまで自動車とバイクが増え,またパソコンやスマートフォンも広く普及し,物質的な豊かさが目に見えるようになってきました。CIA World Factbookによればラオスの実質GDP成長率はここ数年7%を超える状態が続いているとのことです。
このように繁栄を謳歌しているかのように見えるラオスですが,一外国人の立場から見るといくつかの重要な問題を抱えているように感じられます。例えば,技術を国外からそのまま導入しているだけで,運用やメンテナンスに関わる知識やスキルを学ばないことや,導入した技術を自国に適った形で応用し,新たに産業を起こそうとはしないこと等です。農業と水力発電と観光ぐらいしか産業を持たない国が生存し続けるためには,導入した技術を自らのものとし,新たな産業を興したり,社会経済の問題解決に生かしたりする人材が必要です。
先日,インドネシアのジャカルタとバンドンを訪れましたが,同じようなことを思いました。ラオスよりもはるかに発達したインドネシアですが,この国でも先端技術のみ導入され,そのマネジメントがうまくいっていない事例が多々見られました。
東南アジア各国は今後も経済成長を続けると思われますが,その過程で個別の技術の問題ではなく,技術のマネジメントの問題が深刻化するでしょう。東南アジアにおけるMOT教育の重要性はますます高まっていくものと考えられます。
西日本MOTコンソーシアムメールマガジン第103号(2012年4月)より転載
山口大学MOTでは昨年度よりJICAの委託プロジェクト「ラオス日本人材開発センター(LJC)・ビジネス分野活動等支援」に取り組んでいます。具体的な業務内容はラオス国立大学経済経営学部(NUOL-FEBM)およびLJCが共同運営するMBAコースにおいて教育の実施、教育手法および運営手法の技術移転を行うことで、廣畑伸雄准教授と小職とでこれらの業務にあたっています。
ラオスは人口630万人。地域大国タイ、ベトナム、そして超大国である中国に囲まれ、これらの国々の影響下にあります。後発開発途上国(LLDC: Least Developed Country)に位置づけられているものの、1986年の新経済政策(チンタナカンマイ)以来、市場経済がゆっくりと発展しつつあります。首都ビエンチャンは治安が極めて良好でした。
MBAコースの受講者は主として政府機関や銀行の若手職員で、この国の次世代のリーダーとなる存在です。このコースで小職が担当しているのはMOT教育およびティーチングメソッドの移転です。市場も工業も未発達であるのにもかかわらず、MBAコース、ましてMOT教育の必要性があるのか、という疑問はありましたが、ラオス側の要望により実施されることになりました。
小職は今年の2月下旬から3月上旬の2週間にわたって講義を行いました。この中で先進国におけるMOTの必要性と現状、先進国と発展途上国の間のMOTの違い、マーケティング、研究開発、設計、生産のしくみ、知的財産の管理等のトピックを取り上げました。小職の講義の中で受講者がとくに関心を示したのは、ITとその活用でした。受講者の間ではパソコン、モバイル、インターネットが広く普及していました。この国のITインフラは現状ではそれほど強固なものとは言えませんが、急速に情報化が進展し、ITに特化した技術経営の必要性が生じるかもしれません。
ラオスにおけるMOT教育は始まったばかりで、日本・ラオス双方の教員がともに知識、教育ニーズのギャップなどを埋めながら手探りで、コースを運営しているところです。受講生に対するアンケート調査では、小職の講義は幸いにも高く評価されましたが、慢心することなくブラシュアップを続け、今年度も引き続きラオスにおけるMOT普及に取り組みたいと思います。
西日本MOTコンソーシアムメールマガジン第68号(2009年5月8日)より転載
山口大学大学院技術経営研究科では文部科学省委託事業として今年の1月から3月にかけて「先進ものづくり人材育成プログラム・ALDテクノロジーコース」と題した技術者向けのセミナーを実施しました。ALDとはAnalysis-led Design、解析主導設計の略です。近年、製造加工業の分野では高品質・低コスト・短納期の製品製造を目指したDE(デジタル・エンジニアリング)化の波が世界的に広がっていますが、とくに先進企業においてはシミュレーションなど解析技術を駆使することにより、上流における製品の品質の作りこみ(フロントローディング)を行うことが本格化し始めています。これをALDと呼びます。
「ALDテクノロジーコース」には北九州、山口から計20名、地元中小企業から大手企業まで多様な技術者が集まりました。これらの人々を対象に山口大学大学院技術経営研究科の北九州教室(AIM8階)と常盤キャンパス(宇部)で三次元CADや初歩的な解析の演習、解析モデルの理論、商品開発や品質工学など技術経営に関する講義など豊富な内容の教育が計51時間にわたって実施されました。受講者の方々にとっても講師の側にとっても大変な教育だったと思いますが、西日本におけるALD普及の第一歩を踏み出すことができたと思います。
今年度の「ALDテクノロジーコース」の終了にあわせ、継続的な教育の場として本コンソーシアムの中に「ALD部会」を設立したところ、多くの受講者から本コンソーシアムへの加入申請がありました。本コンソーシアムの活性化の一助になるかと思います。
このALDという設計思想は経営の仕組みにも変化をもたらす可能性を秘めています。今年度はあらたに広島・山口・北九州で管理者・経営者向けの「ALDマネジメントコース」等を開催する予定ですので、本コンソーシアム会員各位にもご参加いただければ幸いに存じます。
西日本MOTコンソーシアムメールマガジン第55号(2008年4月3日)より転載