住宅用太陽光発電システムの普及実態

ミクロ編:太陽光発電システム導入世帯の属性


Dr. Kazuhiro Fukuyo
Professor, Yamaguchi University
Last updated: May 14th, 2011

※本研究内容は「第45回空気調和・冷凍連合講演会」にて発表済みである。


背景・目的

太陽光発電は地球温暖化対応という側面だけではなく,関連産業の育成・強化による雇用創出という側面もあり,普及を促進することが必要である。

家庭部門における太陽光発電の普及を促進するためには,太陽光発電導入世帯の実態を把握することが必要である。

すでに民間調査機関などにおいて太陽光発電導入世帯の実態調査は実施されているが,これらの調査では導入の動機や導入後の満足度などが中心であり,太陽光 発電導入世帯の世帯・住居属性,電力消費実態,導入世帯と非導入世帯の比較などは行われていない。

そこで,本研究では太陽光発電導入世帯の実態を把握するべく,太陽光発電導入世帯および非導入世帯,それぞれ約300世帯を対象とするWebリサーチを実 施した。以下,調査及び分析結果について報告する。

調査概要

マクロミル社の住居モニタを利用し,スライド4に示すような調査を実施した。「有効回答1」とは,後述する質問内容のうち,電気代に関する回答が未記入あ るいは誤記しているモニタを除いた回答数,「有効回答2」とは,電気代以外の質問項目についてすべて回答したモニタの数である。

質問内容はスライド5に示す通りである。

調査概要
スライド4 調査対象


質問項目
スライド5 質問内容

調査結果

以下,有効回答1の結果を示す。

回答者のデモグラフィック属性

太陽光発電導入世帯および非導入世帯の世帯人員・住居の間取り・建築構造・税引き前年収別の回答数割合の分布をスライド6〜8に示す。

スライド6に示すように,地域・年齢に関しては太陽光発電導入世帯と非導入世帯の間で明確な違いは見られない(ただし北海道を除く)。

スライド6 回答者の属性(地域・年齢)
スライド6 回答者の属性(地域・年齢)

スライド7の世帯人員の分布を見ると,太陽光発電導入世帯の場合,世帯人員4人に強いピークが見られるのに対し,非導入世帯の場合は同じく世帯人員4人に ピークが見られるものの全体として緩やかな分布形となっている。χ^2検定によれば両者の分布形にはp < 0.001で有意な差が認められた。

スライド7の年収は2009年の税引き前世帯年収の分布を表したものである。この図によれば,太陽光発電導入世帯と非導入世帯の間に明確な違い(p < 0.001で有意)が見られる。すなわち,太陽光発電導入世帯の年収の方が非導入世帯の年収よりも高い傾向が見られる。

太陽光発電世帯の年収の最頻値は500万円以上700万円未満であるのに対し,非導入世帯のそれは300万円以上500万円未満である。世帯の経済的状況 が高額な太陽光発電システムの導入に強く影響を与えていることは当然のことと考えられる。

スライド7 回答者の属性(世帯人員・年収)
スライド7 回答者の属性(世帯人員・年収)

スライド8の間取りに関しては,太陽光発電導入世帯と非導入世帯の間で微妙な違いが見られるが,3K/3DKと3LDK,4K/4DKと4LDK, 5K/5DKと5LDKをそれぞれ一つのグループにまとめてしまう場合には,太陽光発電導入世帯と非導入世帯,ぞれぞれの間取りの分布には有意な差が見ら れなくなる。

また,建築構造に関しては太陽光発電導入世帯と非導入世帯の間でp < 0.001で有意な差が認められた。非導入世帯の住居の8割以上は木造であるのに対し,太陽光発電導入世帯では木造は6割強に留まっている。


スライド8 回答者の属性(家屋)
スライド8 回答者の属性(家屋)

耐久消費財の所有状況

スライド9は耐久消費財の所有状況を示したものである。エアコンの所有状況に関しては太陽光発電導入世帯と非導入世帯の間で明確な違いが見られない。

明確な違いが見られるのは,電気温水器と食洗機の所有状況である。太陽光導入世帯はオール電化を同時に導入している場合が多く,電気温水器の所有率が高 い。また,太陽光発電導入世帯では食洗機のような「必須アイテム」というよりも「ぜいたく品」に近い電化製品が導入されている。

スライド9 耐久消費財の所有状況
スライド9 耐久消費財の所有状況

省エネ・省資源意識(サイコグラフィック属性)

サイコグラフィック属性ともいうべき省エネ・省資源意識にかんする回答結果をスライド10に示す。

◎は「あてはまる」,○は「どちらかといえばあてはまる」,△は「どちらともいえない」,▲は「どちらかといえばあてはまらない」,×は「あてはまらな い」という回答である。

太陽光発電導入世帯では省エネ・省資源の意識が相対的に高く,また,それは家計のためであると考えている。家計簿をつけている世帯の割合も多い。これらの 結果を端的に表現すれば,太陽光発電導入世帯では,「家計のために省エネ・省資源を心掛け,家計簿をつけている」という志向・行動の世帯の割合が多いとい うことがいえる。

slide10 省エネ・省資源意識
スライド10 省エネ・省資源意識

太陽光発電システムの仕様

太陽光発電導入世帯に導入されたシステムの仕様(製造元,定格出力)はスライド11に示すとおりである。

製造元の中のその他の企業としてはホンダや長州産業,そして中国企業のサンテックパワーが挙げられていた。このほか,約1割の世帯は製造元を把握していな いこともわかった。

定格出力に関しては高額な商品であるにもかかわらず太陽光発電システムの定格出力に関しては把握していない世帯が約3分の1を占めていることも判明した。

スライド11 太陽光発電システムの仕様
スライド11 太陽光発電システムの仕様

太陽光発電システムの導入理由と導入後評価

スライド12に示すように,太陽光発電システムを導入するきっかけについては住居の新築・改築時が最も多く,メーカーの薦めがこれに次いでいる。導入理由 としては電気代の節約が圧倒的に多く,地球温暖化防止はこれに次いでいるものの,大きく差が開いている。

また,スライド12には導入後の評価(満足度)を複数の側面から行った結果を示している。

操作性は使いやすさ,環境性は温暖化防止,経済性は電気代の節約,デザイン性は住居との調和といった観点からの評価である。「非常に満足」と「やや満足」 とをあわせると,太陽光発電システムはいずれの側面でも約8〜9割の高い満足度評価を得ている。

スライド12 太陽光発電システムの導入理由と導入後評価
スライド12 太陽光発電システムの導入理由と導入後評価

買電量の比較

年平均買電量の比較(全国)

スライド13,14に太陽光発電導入世帯・非導入世帯の買電量のヒストグラムを示す。電気代の回答値をを2009年の電力単価22.25円/kWh(深夜 電気代含む。家計調査7)による)で割って月別の買電量を算出した。

スライド13は年平均1カ月当たりの買電量のヒストグラムである。太陽光発電導入世帯では300kWh/(月・世帯)以上400 kWh/(月・世帯)未満に,非導入世帯では400 kWh/(月・世帯)以上500 kWh/(月・世帯)未満にピークが見られるが,t検定およびウィルコクソンの順位和検定では両者の間に有意な違は見られないという結果が得られた。

slide13 年平均買電量の比較
スライド13 年平均買電量の比較

夏期の買電量の比較(全国)

スライド14は夏期(2009年7〜9月)の1カ月当たりの平均買電量のヒストグラムである。

太陽光発電導入世帯では200 kWh/(月・世帯)以上300 kWh/(月・世帯)未満に,非導入世帯では300 kWh/(月・世帯)以上400 kWh/(月・世帯)にピークが見られる。

また,夏期平均1カ月当たりの買電量の中央値は太陽光発電導入世帯では355.1 kWh/(月・世帯),非導入世帯では434.0 kWh/(月・世帯)で,両者の差が明確である。

これらの差についてはt検定およびウィルコクソン検定ではp<0.001で有意性が認められた。すなわち夏期においては太陽光発電導入世帯の方が明 確に買電量が小さいということができる。

スライド14 夏期の買電量の比較(全国)
スライド14 夏期の買電量の比較(全国)

夏期の買電量の比較(西日本)

スライド15に示すように,西日本の県の多くは年間日照時間が比較的長い。

そこで,日照時間が短い,鳥取県と島根県を除く西日本(中国・四国・九州)に関して夏期の購入電力量のヒストグラムを作成した(スライド16)。


スライド15 日照時間の平年値
スライド15 参考:日照時間の平年値

スライド16に示すように,結果として西日本においては太陽光発電導入世帯と非導入世帯の間の夏期の購入電力量の違いが明確になった。

スライド16 夏期の買電量の比較(西日本)
スライド16 夏期の買電量の比較(西日本)

まとめ




参考:
  1. 資源エネルギー庁: 平成21年度エネルギーに関する年次報告書, pp.105 – 106, 2010
  2. マイボイスコム株式会社:http://www.myvoice.co.jp/biz/surveys/10106/index.html, 2008, (参照2010.4.20)
  3. 株式会社アイアンドシー・クルーズ: http://www.iacc.co.jp/release/release_20091104.pdf, (参照2010.4.20)
  4. 日経BPコンサルティング: http://consult.nikkeibp.co.jp/consult/release/solor100208.html,(参照 2010.4.20)
  5. 株式会社マクロミル: 住居モニタのご案内, 2010.2
  6. 長谷川, 井上:日本建築学会環境系論文集, No.583, pp. 23 – 28, 2004.9
  7. 総務省統計局:2009年家計調査結果第4-1表・全国二人以上の世帯


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