動物介在教育とは −発達心理学の観点から−

柿沼 美紀
(日本獣医生命科学大学獣医学部比較発達心理学教室)

 動物が教育現場に介在すると子どもにいろいろな変化が見られることが報告されている。動物との関係が希薄になっている今日、幼児期から動物に接することで生命に対する関心を高める必要も指摘されている。

  なぜ動物とのかかわりから子どもは多くを得るのだろうか。例えば動物との関わりを通して子どもの自主判断能力の向上、集中力の増加、共感性の増加などが報告されている。従来子どもたちはどこで、誰の指導のもとでこのような能力を身につけていたのだろうか。そして、なぜあえて「動物介在教育」といった新しい概念を教育現場に用いる必要があるのか。

  一つの見方としてE. Wilsonのバイオフィリアの考え方がある。狩猟採取の時代、人は生き抜くために生命体に強い関心を持つ必要があった。つまり、人は動植物に対して特別の興味を持ち、そこから多くを学ぶようになっているというのである。その能力がまさに動物介在教育によって引き出されるのかもしれない。
東京都江戸川区の保育所を対象にした動物飼育調査では、年少児は身近なムシに関心をしめし、やがて関心は小型ほ乳類へと移行している。幼稚園児を対象とした多くの研究で、ウサギは子どもの共感性を引き出す、分離不安を軽減することが指摘されている。また動物に対する責任感、相手の立場を理解する行動も報告されている。

  衣食住が同じ場所で営まれるモンゴル遊牧民の子どもたちは幼い頃から家畜と接し、重要な労働力としてその世話をしている。大人は子どもの成長にあわせて動物の扱いという重要な「スキル」を伝え、子どもも大人の模倣をしながらそれを獲得しようとする。おのずと大人と子どものコミュニケーションが成立し、子どもの観察力、集中力、判断力、責任感などが培われると思われる。

  工業化が進んだ日本では教育現場がこのような経験の場となる必要があるのだろう。子ども動物への関心、そしてそれにともなう様々な能力を培うために。