広汎性発達障害に対するイヌを用いた発達支援の実施とその効果
―行動および心理尺度による検討―

椛島 大輔
(麻布大学大学院獣医学研究科動物応用科学専攻博士後期課程)

調査1.広汎性発達障児に対するイヌを用いた発達支援の実施とその効果
  広汎性発達障害の一型である自閉症およびアスペルガー症候群は病態の多様性に加え、質的障害による心理社会的不適応が二次的障害を併発させることで症状が複雑化し、効果的な治療および支援を困難としている。そのため生活技能を効果的に習得し、生活環境への円滑な汎化を図ることが重要となる。動物を介在した研究は多数報告されており、特にイヌの「動機付け」および「社会的潤滑油」の役割に着目した。本研究では11歳から16歳(平均年齢14歳)の高機能自閉症2例およびアスペルガー症候群6例、広汎性発達障害1例の計9事例について行動観察およびCBCL(Child Behavior Check List)によりその効果を調査した。
  その結果、イヌの反応が対象者に行動の改善を促し、学習における「動機付け」として作用したことが考えられる。また、生活環境では行動および対人関係や就学状況における改善の報告が得られた。CBCLでは9事例のうち8事例において数値の改善がみられた。数値の変化は心理的側面および行動の双方に関連しており行動の改善および生活環境内での対象者に対する評価の向上を示すと考えられる。

調査2.イヌを介在することによる広汎性発達障害児とその母親の関係性の変化
  本研究では広汎性発達障害児の生活技能の効果的な習得および支援環境から生活環境への円滑な移行に加え、生活環境において重要な役割を担う母親との関係性に着目し、その改善を図ることを目的としてイヌを介在した家族支援を実施し、その効果を調査した。調査1における9事例から13歳から17歳(平均年齢15.2歳)のアスペルガー症候群4例および広汎性発達障害の1例の計5事例に対して行動観察による母親の精神的健康、母子関係の変化とSUBI(The Subjective Well-being Enventory)、PCR(Parent-Child Relationship)による調査を行った。また、健常な子どもと母親10組を非支援群として設け、上記心理尺度を実施し、支援群との比較を行った。
  行動観察では、母親に子どもに対する能力理解および問題行動への対処能力の向上がみられ、母子間の相互作用が増加した。また、開始時のSUBIの結果は両群に差はなかった。PCR親子関係診断検査では、非支援群は安定した数値が得られたが支援群の全5事例は母子間に大きな偏りがみられた。終了時には支援群の全5事例に改善がみられ、3事例で安定した数値が得られた。このことからイヌの介在は母親の療育能力の向上や母子関係の改善に有効であることが明らかとなった。