(図は準備中です)。
1.はじめに 熱により劣化しやすい食品の品質・機能を保持したまま乾燥により脱水し、長期安定性に優れた製品を作りだすことはたいへん重要である。一方 可食部分の30%にも達するといわれている家庭あるいは食品産業からの廃棄物(食品系生ゴミ)はバイオマスとして重要な資源であるが、現在は有効には利用されていない。乾燥により減量・安定化させ貯蔵運搬が容易になると新しいフードシステムが構築できるであろう。このように現在の食生活および世界の食糧供給体制と環境問題を考えると乾燥はますます重要なプロセスとなることは間違いないが、乾燥機構と乾燥時の品質変化についての理論的解析は未だに十分ではない。大きな理由は乾燥は経験的に、あるいは試行錯誤で実施できてしまうことにある。しかしながら最適な操作条件の設定(高品質でエネルギー消費が最小)や添加物(安定化剤)の選択を理論的に実行するのは困難である。
本稿では液状食品乾燥機構と乾燥時に起きる種々の品質変化について解説する。特に水分拡散移動についてゲルの影響も含めて考察している。最後に現状をまとめている。
2食品乾燥とは 乾燥は溶媒(一般には水)を含む固体あるいは溶液に熱を与えて溶媒を蒸発させる操作である。溶液のときは最終的に固体状態まで蒸発させるときに乾燥という。熱の供給方法、まわりの気体(熱媒体、たいていは空気)の状態によりさまざまな乾燥操作に分類される。熱風を材料に対流伝熱で供給する対流熱風乾燥、加熱板と材料を接触させ伝導加熱する伝導乾燥、(遠)赤外線で材料表面に放射伝熱で供給する放射乾燥、マイクロ波などにより材料自体を発熱さえる均一発熱乾燥、真空中で伝導あるいは放射加熱して乾燥する真空乾燥、材料自身の保有する溶媒の過熱蒸気を熱媒体とする過熱蒸気乾燥などがある。材料をあらかじめ−30℃程度に凍結し真空乾燥すると氷が昇華する。この方法は凍結乾燥といい熱に不安定な食品医薬品に利用されるが他の乾燥にくらべてコスト高となる。ここでは噴霧乾燥など食品に広く利用されている対流熱風乾燥について述べることにする。
乾燥においては含水率 u (kg-水/kg-乾燥固体)で水分濃度を、単位時間単位面積あたりの水分蒸発量を乾燥速度
J
[kg-水/us]と定義する。乾燥させる材料の物理的性質により乾燥機構と乾燥速度は異なる。溶液あるいはゲル状材料においては水分拡散により水分は材料表面に移動して蒸発する。多孔質固体では自由水粘性流れ、蒸気拡散などにより水分が移動する。乾燥直後の材料余熱期間と呼ばれる短い期間の後に乾燥速度が一定の領域が存在する。これを恒率(定率)乾燥期間といい材料に供給される熱がすべて水の蒸発に利用される。このとき材料温度は一定で、熱が熱風のみから供給されるときは湿球温度と等しくなる。材料内部の水分移動速度が遅くなり材料表面への供給が追いつかなくなると恒率乾燥期間は終了し乾燥速度は低下する。この時点の含水率を限界含水率
u
Cという。これ以降を減率乾燥と呼び、最後に平衡含水率 ueに到達すると変化しなくなり終了する(Fig.1-2)。
マクロに見た乾燥機構を述べたが、食品加工技術としての「乾燥」の目的は「貯蔵・運搬のための蒸発脱水による容量減と安定性の向上」であろう。われわれは乾いた食品が長持ちすることを経験的に知ったようであり、「乾燥」は古くから利用された食品加工技術の一つである。いわゆる干し肉、干し野菜、干し果物などに代表される食品の天日乾燥は典型的な例である。これを水分活性で表現すれば「脱水により水分活性の低い状態」へ変質させずに持っていく操作ということになる。Fig.3に示すようにほとんどの食品と食品材料は領域Aでは非常に安定化される(水分活性は水分の存在状態を表すひとつの指標である)。
また単に脱水が達成されるのみでは製品にはならない。高品質製品を乾燥製造するためには温度以外にもさまざまな要因を考慮する必要がある。例えば減率乾燥時に形成される材料内部の水分濃度分布が乾燥製品の品質に影響することがある。このため食品によってはひび割れなどが生じるので、これをさけるため乾燥速度を遅くして製造されることも多い。パスタや麺なども60〜90℃程度で数時間以上かけて乾燥製造されている。一方、後述するが液状食品では水分濃度分布が形成されることにより表面に皮膜状の層が形成され、芳香物質が封じ込められるという現象が起きる。これを選択拡散と呼び、適切な乾燥条件と皮膜形成材料を選択すると香り高い食品を乾燥製造することができる。
3 液状食品の乾燥挙動 液状食品の乾燥挙動を考えるために、例えばコーヒーやスキムミルクの一滴が熱風と接触しながら乾燥して落下していくとする(このような乾燥装置が噴霧乾燥塔である)
(Fig.4)。熱風と液滴の温度差を推進力とし液滴に移動する熱エネルギーは水分の界面からの蒸発と(水の液滴から外部媒体への移動)、液滴の温度上昇に利用される。このため乾燥は熱と物質の同時移動操作と呼ばれる。液滴内部での水分の移動は拡散により支配されている。拡散とは、濃度勾配を推進力として物質が移動する機構である。乾燥直後では、水分拡散係数は通常の希薄溶液における分子拡散係数に近いので、液滴表面(界面)までの移動は容易である(以下界面は表面とほぼ同義で使用する)。この結果、界面からは自由に水分が蒸発できる。このような状態では、熱風から受け取るエネルギーはすべて水分の蒸発エネルギー(潜熱)に利用され、液滴は湿球温度と呼ばれる純粋な水滴とほぼ等しい温度を保つ(湿球温度=乾湿球温度計の示す温度)。この領域では、単位乾燥面積あたりの乾燥速度はほぼ一定となる。それゆえ恒率乾燥期間という(Fig.4)。
乾燥が進むにつれて固形分濃度が増加し、それにともない拡散係数が低下するので、水分の界面への供給が界面からの乾燥蒸発においつかなくなる。その結果、界面濃度が減少し液滴内部には水分濃度分布が形成される。界面からの蒸発速度は界面濃度で規定されるように思えるが、実際には界面濃度に対応する水分活性Awにより支配される(Fig.1参照)。
Awと水分濃度の関係は脱着等温線と呼ばれFig.1のような形状をとる。ある程度以上の水分濃度ではAw=1であり、ふつうの水と同様にふるまう。乾燥の進行にともない界面濃度が、この濃度以下に低下するとAwが1から急激に低下する。このような水は定性的には固形分に強く束縛された状態と解釈され後述する安定性と密接に関係する。
界面のAwが低下すると、濃度分布は非常に鋭くなり乾燥速度は急激に減少する。これは拡散係数が希薄溶液の値の数千〜数万分の一までに急激に低下することに起因する。この拡散係数の低下は、前述した水分活性の低下とほぼ対応しており、定性的には水と固形分の相互作用が強くなると考えてもよい。Fig.5に概略を示した計算機シミュレーションを用いると、界面のごく近傍に急激な濃度勾配が形成されていることがわかる(Fig.6)。界面ではほぼ水分濃度が0の完全な固体状態になっていることから、濃度勾配は界面に乾いた層(スキン、皮膜,被膜)が存在している状態とも解釈できる。ただし、このような層(あるいは相)
は不連続なものではない。事実、平板状のショ糖溶液を水分数%程度まで乾燥させた直後に試料を観察してみると、このような鋭い濃度分布が界面に形成されているはずではあるが透明で不連続な層(相)は確認できない。
乾燥の進行とともに乾燥速度はさらに低下し、熱風からのエネルギーは液滴温度の上昇に使用され、次第に熱風温度に接近していく。水分蒸発にともない液滴は収縮する。理想的には蒸発水分量だけ均一に体積が減少するが実際の噴霧乾燥では内部に気泡をまきこんだ中空状態で乾燥されることもある。
これが糖質などの液状食品の典型的な乾燥挙動である。乾燥速度は拡散係数DW(とその水分濃度依存性)に支配される。高分子になるほどDWが小さいので乾燥速度は遅くなる。同時に恒率乾燥期間も短くなり、ほとんど存在しないこともある(Fig.4)。
4 乾燥時の品質変化 食品乾燥時には、揮発(芳香)成分の散逸や、タンパク質の変性、脂質の酸化、ビタミンの変質など、数多くの望ましくない変化が起きる。これら品質変化が定量的に予測できれば高品質食品を乾燥する装置および方法が開発できる。液状食品の乾燥における揮発成分の散逸はオランダのThijssenらにより提唱された「選択拡散理論」でほぼ説明ができることが明らかとされている。かれらは相対揮発度から考えると完全に散逸されるはずの揮発成分が噴霧乾燥で保持されることに気がついた。前述した界面近傍での鋭い濃度分布領域を水より大きい揮発性分子が透過できず(拡散係数が非常に低い)、揮発成分が事実上閉じ込められると考えた(Fig.7)。選択拡散理論によれば界面濃度が零に近づくまで恒率乾燥期間に揮発成分は散逸し、その後一定値を保つことになる。Fig.8に典型的な例を示すが単一液滴を用いた実験でも選択拡散理論に従った挙動が確認されている。すでに述べたように恒率乾燥期間は糖質の分子量の増加とともに短くなるので、散逸の終了点も短くなるとともに最終保持率も高くなる(Fig.9)。簡単には、比較的高分子の糖質(マルトデキストリンなど)を用いて乾燥強度を高くすれば揮発成分の保持率は高くなる。わたしたちの実験でも低分子糖類では10%程度しか保持されない乾燥条件において高分子糖類を使用することにより50%程度の保持率が得られている(Fig.8)[9]。ただし実際の噴霧乾燥ではノズル近傍での挙動が重要なので、必ずしも選択拡散のみで保持を制御できるわけではない。
一方、熱感受性物質である酵素などは、恒率期間では温度が低いのでほとんど変化しない。恒率期間終了後、材料温度の上昇とともに変性失活するはずであるが、予想よりは変性速度がずっと低くなる。この理由は乾燥の進行とともに含水率が減少しているので、タンパク質が安定化されるからである。一般にほとんどの酵素タンパク質は低含水率では非常に安定化される。定性的には水分活性の減少と考えてもよい。酵素溶液の保存に糖質やポリオール(ショ糖、グリセリンなど)を添加することも、ほぼ同様な原理に基づいている(厳密な機構については多くの考え方がある)。この結果、適切な乾燥条件を設定するとFig.10
に示すように例えば単に70℃に保ったならば、数10秒で完全に活性が失われるような酵素でも初期活性を保ったままでこの温度で乾燥することも可能となる。
選択拡散による芳香成分の保持機構では糖類の分子量を増加させると保持率が増加することは既に述べたが酵素活性に関する糖類の安定化効果はかなり複雑である。糖類が酵素を安定化すること、また基質類似の糖質はさらに強い安定化効果を持つことも周知の事実である。しかし、あるタンパク質に対してどの糖類が安定化効果が強いかを推定することは簡単ではない(例えばガラス転移温度で判定することもできない)。以上の議論はタンパク質と糖質の溶液中での存在状態を基にした議論であり、平衡状態を考えている。乾燥時には温度と水分濃度の両方が変化する。すでに述べたように、分子量が増加すると乾燥速度が低下するので、より高含水率で高温度の状態が存在することになり、タンパク質にとっては変性しやすい条件となる。実験結果でもマルトデキストリンでは、主としてこのような理由により最終の酵素活性が低い値となる実験結果が得られている(Fig.8)。
5 糖溶液の乾燥挙動に対する添加物の効果 前述したように糖溶液の乾燥挙動は拡散係数を定量化することにより記述できる。食品が複雑な多成分系であることは既に述べたが、単純な糖溶液との違いを知ることも重要である。 グリセリンは食品添加物であるが、例えば医薬品ソフトカプセル製造のためにゼラチンに添加されることでもわかるように効果的な可塑化剤である。このような可塑化剤の乾燥速度への影響を検討した。拡散係数はグリセリン添加とともに増加した。特に低含水率域での増加が顕著である(Fig.11)。このような増加はゼラチンのみならずsucrose, maltodextrinでも同様であった。また、活性化エネルギーはグリセリン添加量とともに減少する傾向を示した。水分脱着等温線(水分活性Awと平衡含水率uの関係)はFig.12に示すようにグリセリン添加とともに低Aw域でのuが減少した。これは束縛された水(単分子吸着に相当)の量が減っていることを意味しており、前述の低含水率域の拡散係数の増加と対応する。またグリセリン添加によるガラス転移温度の低下と考えても良い。
6 ゲル化した糖溶液の乾燥挙動 前述したように糖溶液の乾燥挙動は拡散係数を定量化することにより記述できる。このような拡散係数の決定のために寒天でゲル化した糖溶液の等温乾燥速度を測定しているが。これは形状安定と対流防止のためであるが結果的にはゲル状材料の乾燥実験となっており、寒天ゲルは水の拡散移動には影響しないと暗黙に考えている。一方、現在の食品を眺めてみると食生活の多様化によりさまざまなゲル状食品が開発されている。実際にゲルが水分移動にどのような役割を果たしているか知ることは乾燥にとどまらず食品工業において重要である。ゲル状食品の乾燥挙動あるいはゲル化機構を知るために、さまざまなゲル(寒天,カラギーナン,ペクチン,アルギン酸ナトリウム,ゼラチン,ジェランガム)を試料として乾燥実験のみならずレオロジー測定等によりゲルの特性と乾燥あるいは物質移動の関係について調べている。
ゲル化した糖溶液についての乾燥速度を調べてみると寒天1-5%ショ糖溶液ゲルの乾燥速度はほぼ同一であった。このことはゲルよりは糖溶液の性質により乾燥過程が支配されていることを意味している。レオロジー的に言うとふつうの粘度計で測定される粘度が物質移動を支配するのではなく、ゲルネットワーク内の溶液の粘度が支配しているということになる。
一般に拡散係数(D)は溶液の粘度(h)と絶対温度TとD h /T=constantという関係を示す(前述の(7)式参照)。しかしながらここでの粘度はミクロ粘度と呼ばれるべき粘度であり、通常の粘度測定で観測される流体力学的粘度(マクロ粘度)ではない。寒天やアルギン酸ナトリウムのゲル濃度を変化させたときの等温乾燥速度と平均含水率の関係はほとんど差異がないことは、非常に高粘性になっても拡散係数は変化しないことになる。完全にゲル化しない溶液(例えばポリビニルアルコール)では粘度が1000倍になっても拡散係数ほとんど変化しない。
ゲルあるいは濃厚糖溶液における当量電気伝導度から逆算した粘度(ミクロ粘度)と流体力学的粘度をFig.13に、当量電気伝導度の相対値と拡散係数の関係をFig.14に示す。ミクロ粘度が糖の種類に依存しないこと、通常の粘度よりは高濃度まで増加しないことがわかる。また拡散係数ともよく相関されている。
ゼラチンゲル化ショ糖では低含水率領域で乾燥速度が低下している(Fig.15)。この原因は表面へのゼラチン皮膜の形成であると推察している。ゼラチン単独のフィルムの値と低含水率ではほぼ一致した。また表面に不連続相が顕微鏡で観察された。この皮膜形成がsegregationによるものかphase
separationに依るものかはまだ確認できていないが、平衡含水率が同じであるにもかかわらず乾燥挙動が異なるという興味深い現象であると考えている。
前述した表面近傍の鋭い濃度分布は表面割れなど食品の品質に大きく影響するので温和な条件で乾燥されることも多い。例えばパスタでは数時間、木材などでは数日かけた乾燥も行われている。一方、「選択拡散」による芳香成分保持では表面濃度分布(表面皮膜)が品質向上に役だっている。エマルションの乾燥などでは酸化防止の観点から表面皮膜が酸素を透過しないことが望ましい。乾燥条件と材料により表面と皮膜を制御できるようになると様々な機能を持つ食品が製造できる。前述の酵素活性の保持機構を詳細に検討すると活性は表面に多く存在するので表面に機能を持たせることにより高活性の粉末が製造できる。逆にglycerolなどの可塑剤添加は濃度分布の形成を抑制し均一な製品製造に有効であるかもしれない。
7 半固体状食品の乾燥挙動 麺・パスタなどの小麦粉加工食品は厳密には液状食品やゲル状食品ではない。その乾燥挙動を糖溶液の乾燥挙動と比較してみると高分子のマルトデキストリンに類似ではあるものの低含水率ではマルトデキストリンよりむしろ乾燥速度が高い(Fig.16)。脱着等温線を見ると低水分活性における平衡含水率はマルトデキストリンよりも小さい(Fig.17)。このことから低含水率領域における麺の水は固体成分との相互作用が弱く、その結果、乾燥速度も高いのであろうと考えている。また、表面ひび割れを防ぐために湿度が高い条件で乾燥されるが、そのような乾燥速度についてのモデル計算の適用は今後検討すべきであろう。
8 おわりに 液状食品の乾燥挙動と乾燥時の安定性を推定するためにはFig.5に示すモデル計算に必要な物性値が必要となる。拡散係数については、ある程度予測可能と考えられるが、脱着等温線、反応速度は現在のところ推算は簡単ではない。もちろん液状食品乾燥機構と乾燥時の品質および物性変化すべてを、このモデルで記述できるわけではない。実測することにより解決できる問題以外での液状食品乾燥における今後の課題を以下に列挙する。
a.多成分系としての食品の詳細な乾燥機構についてはまだわかっていない。乾燥速度(水分拡散係数),
ミクロ/マクロ粘度、ガラス温度についての相互関係を検討していく必要がある。
b. 異なる大きさの固体成分の移動速度:乾燥収縮するときに低分子と高分子の移動速度が違うと界面と内部で組成が変化し物性が変化する可能性がある。表面と内部で味覚が異なる食品や保存剤などが均質に分布されないなどの問題を引き起こす。
c.乾燥製品の保存時の変化:計算上では10年以上も安定である乾燥製品ができるが、実証できるのか?逆に言えば保存時にも変化が生じるのか?
d. 液状食品乾燥(拡散)モデルの適用性の限界:溶解度が低い糖類あるいは食品では乾燥直後に固相が表面に析出される。これは不連続相の形成を意味するが、それでもみかけ上はモデルが適用できるのかもしれない。農産物の乾燥については構造の影響があるように思えるが乾燥速度を単純に有効拡散係数で記述する研究は多い。パスタのような混練した加工食品の乾燥も同様である。液状食品との乾燥速度の比較は、あまり行われていないが、この種のデータは実験手法に強く影響を受けるの厳密な比較解析が必要である。
e. 水の存在状態と安定性の関係:多くの乾燥の研究では水は単に蒸発する媒体とみなされ、その存在状態については考慮されていない。一方、平衡物性としての水については、従来から結合水、自由水、水和水などの用語を用いて固体成分との相互作用について研究されてきている。乾燥における水の存在状態と安定性の関係について研究が必要である。
f. その他、乾燥速度の簡単かつ精度良い推算法、乾燥時の変形、ミクロなモデルと実際の乾燥装置での挙動の対応など多くの課題が残されている。
乾燥は水の固体成分からの分離操作であるが、他の分離操作にくらべるとある意味では簡単である。その結果、理論を把握しないままで工業生産されている食品が多いが、乾燥機構を理解したうえで生産性と品質の両方に着目した操作ができるようになることは食品工業として重要なことである。特に熱風乾燥でも適切な条件を選定すると熱に弱い物質の乾燥が可能であることを認識しておきたい。またエネルギー多消費型プロセスであるので食品廃棄物の乾燥などでは特に省エネルギーあるいはエネルギーリサイクルの検討も今後重要になってくる。