山口大学大学院医学系研究科整形外科学 HOME
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病気、治療方針について
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脊椎/脊髄疾患

1.
頸椎後縦靭帯骨化症(けいついこうじゅうじんたいこっかしょう)
2.
頸椎椎間板ヘルニア(けいついついかんばんヘルニア)
3.
変形性頸椎症(へんけいせいけいついしょう)
4.
腰椎椎間板ヘルニア(ようついついかんばんヘルニア)
5.
腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)
6.
腰椎分離・すべり症(ようついぶんり・すべりしょう)
7.
腰痛症(ようつうしょう)
(家庭医学大全科、法研 田口敏彦 分担執筆)

 

1.頸椎(けいつい)後縦靭帯(こうじゅうじんたい)骨化症(こつかしょう)

どんな病気か
頸椎を支えている後縦靭帯が骨になる病気で、遺伝的に日本人に多くみられます。靭帯が骨化すること自体が問題になることは少ないのですが、骨化した靭帯が脊髄(せきずい)を圧迫することで、手足にさまざまな神経症状を現すようになります。 
現在のところ、靭帯が骨化する機序(仕組み)についての詳細は不明です。
原因は何か
脊柱は椎(つい)骨(こつ)が積み重なってできていますが、それらの椎骨をつないで支えている組織のひとつに靭帯があります。この靭帯には、椎骨の前側にある「前(ぜん)縦(じゅう)靭帯」と後側にある「後縦靭帯」があります。 
後縦靭帯は脊柱管に面しているので、従来軟らかい組織が骨化して硬く大きくなると、脊柱管内にある脊髄を圧迫してさまざまな神経症状を現します。
症状の現れ方
手足のしびれや痛みで発症することが多く、また、手指の運動がうまくできなくなり、箸が持ちにくい、ボタンが掛けにくい、字が書きにくいなどといった症状が出てきます。脚では「痙(けい)性(せい)歩行」といって、脚が突っ張って歩きにくくなります。さらに症状が進むと、排便・排尿障害も起こることがあります。
検査と診断
靭帯の骨化はX線検査で診断できますが、詳しくはCTやMRIで確認します。ただ、靭帯骨化があるから必ずそれが神経症状を発しているとは限らないので、詳しく感覚や反射・運動機能の検査をする必要があり、身体所見と画像所見が一致した場合に診断が確定されます。
治療の方法
保存治療には、頸部の安静のために頸椎カラーを装用します。薬物療法では、痛みに対しては非ステロイド性消炎鎮痛薬や筋弛緩(しかん)薬を用います。温熱療法や牽引(けんいん)療法も用いられます。約3ヶ月治療をしても症状が改善しない場合は、手術療法を考えます。
すでに脊髄障害により歩けなかったり、排尿・排便障害がある場合は、早めに手術するほうがよいですが、靭帯骨化があるだけで著しい症状がない場合は、経過を観察するだけでよいこともあります。 
手術療法では、頸部の前から手術する方法と、頸部の後方から手術する方法があります。前からの方法は、「頸椎前方徐圧固定術」といい、脊髄の圧迫されている箇所が少ない場合に行われます。この際には骨移植が必要になり、通常は腸骨(骨盤の骨でベルトのかかる部分)から移植骨をとります。後ろからの方法は、脊髄圧迫箇所が多い場合に用いるもので、主に「椎(つい)弓(きゅう)形成術」が用いられます。
病気に気づいたらどうする
整形外科を受診してください。無理に頸椎部に外力を加えると、麻痺症状が増(ぞう)悪(あく)することがあるので注意しましょう。スポーツも、やってよいものと避けるべきものがあるので、医師とよく相談してください。

 


頸椎後縦靭帯骨化症については、患者さんのためにわかりやすく解説したガイドブックが出版されております。田口敏彦教授もアドバイザーとなって編集された本で、患者さんからよく聞かれる質問の内容や、それに対する答え、あるいは医師側から患者さんにぜひ知っておいていただきたい事項を書いたものです。(南江堂、1200円)
 

 

2.「頸椎(けいつい)椎間板(ついかんばん)ヘルニア」

どんな病気か
頸椎は背骨のうちで首の部分を構成する骨で、7つの椎(つい)骨(こつ)からなります。上から第1頸椎、第2頸椎と呼び、いちばん下が第7頸椎です。第2~7頸椎までは、それぞれの間に椎間板が挟まっています。椎間板は椎骨と椎骨の間でクッションのようなはたらきをします。
その構造は、中心部に髄核(ずいかく)と呼ばれるゼリー状の物質があり、それを取り囲むように線維輪と呼ばれる丈夫な組織があります。髄核はボールベアリング、線維輪はバネのはたらきをしています。 
頸椎椎間板ヘルニアは、この椎間板の線維輪に亀裂が入り、そのなかの髄核が飛び出して神経(脊髄(せきずい)や神経根)を圧迫し、さまざまな神経症状が現れます。
原因は何か
椎間板の年齢的な変化(変性)が基盤にありますが、それに頸椎への運動負荷が加わることによって起こります。このために頸椎椎間板の変性がある程度すすみ、なおかつ頸椎への運動負荷の多い年代、すなわち30~50代が好発年齢になります。
症状の現れ方
椎間板ヘルニアによって神経が圧迫されると、手足の痛みやしびれなどのさまざまな症状が出てきます。代表的な症状は首の痛みやこりです。午前中は比較的症状が軽くても、午後から夕方になるにつれて症状が強くなるのが特徴です。神経が脊髄で圧迫を受けているのか、神経根で圧迫を受けているのかによって現れる症状は異なります。 
脊髄が圧迫されているようなら、手のしびれが現れます。手のしびれは片側だけの時もありますが、次第に反対側にも現れることもあります。また、最初から両側にしびれが現れていることもあります。手指の細かな運動もしづらく、箸で豆をつまんだり、魚をほぐすことができにくくなったり、衣服のボタン、とくに目で見ることのできない首まわりのボタンのとめはずしが難しくなります。 
脚にも症状が出て、脚がこわばって歩きにくくなる、いわゆる「痙(けい)性(せい)歩行」が現れます。階段の昇降に手すりが必要になり、脚のこわばりのため、とくに階段を降りにくくなることが多いようです。 
神経根が圧迫されると、主に後頸部から肩、手指にかけての疼痛が現れます。この疼痛は、頸部を反らすようにすると強まるのが特徴で、これは神経根の圧迫がますます増強されるためです。 
検査と診断
症状のところで述べたように、神経根が圧迫されている場合は、首の動きと手への放散痛が特徴です。首を後ろに反らせると手への放散痛がみられます。脊髄が圧迫されている場合は、手の巧緻(こうち)運動が障害されるので、「10秒テスト」を行います。これは、手の全指を握ったり開いたりするグー、パーの動作を10秒間に何回できるかをみるものです。脊髄が障害されていると、指のすばやい動作がうまくできず20回以下になります。
 X線検査では主に骨の情報しか得られないので、頸椎椎間板ヘルニアを診断することはできません。ヘルニアの存在はCTやMRIなどで確認しますが、症状と身体所見を合わせて診断の裏付けをするための検査であり、身体所見と画像所見が一致した場合に診断が確定されます。
治療の方法 
神経根の圧迫では、急性期に保存治療を行えば手術になることは少なく、神経根の圧迫で痛みが出ますが、約3カ月の保存治療で痛みは軽快します。 
保存治療では、まず頸部の安静のために頸椎カラーを装用します。薬物療法では、非ステロイド性消炎鎮痛薬、筋弛緩(しかん)薬、神経賦活(ふかつ)薬などが投与されます。血行を促進し筋肉のこりや痛みを軽減するために温熱療法も行われます。やや特殊な治療法として神経ブロックがあります。これは局所麻酔薬を神経周囲に注射するもので、痛みの強い場合に有効です。 
これらの治療で症状が改善しない場合は手術を考える必要があります。手術では、神経を圧迫している原因になっているヘルニアを除去します。通常は頸椎の前側からヘルニアを除去するので、椎間板が部分的になくなります。その空洞になった部分は骨を移植して固定します。移植骨は腸骨(骨盤の骨でベルトのかかる部分) から採取します。
病気に気づいたらどうする
整形外科を受診してください。無理に頸椎部に外力を加えると、麻痺症状が増悪(ぞうあく)することがあるので注意しましょう。


3.「変形性(へんけいせい)頸椎症(けいついしょう)」

どんな病気か
変形性頸椎症は、前項の頸椎(つい)椎間板(ついかんばん)ヘルニアと同じような病態なので、前項も参照しつつ読んでください。
 頸椎は背骨のうちで首の部分を構成する骨で、7つの椎(つい)骨(こつ)からなります。上から第1頸椎、第2頸椎と呼び、いちばん下が第7頸椎です。第2~7頸椎までは、それぞれの間に椎間板が挟まっています。
椎間板は椎骨と椎骨の間でクッションのようなはたらきをしますが、加齢とともに変性してその弾力性が失われ、クッション作用が弱くなります。その結果、椎骨同士がぶつかったり椎間関節がすり減ったりすると、椎骨は刺激されて骨(こつ)棘(きょく)と呼ばれる骨の突出ができたり、椎骨の並びにずれが生じて変形します。これが変形性頸椎症です。
原因は何か
原因は頸椎における年齢的な変化で、その主因は椎間板の変化です。椎間板は車のタイヤのような役割をしていますが、これが変性を起こすと、タイヤの空気圧が減ったような状態になります。この状態で頸椎にいろいろな運動が負荷されると、その他の部分に生理的範囲を超えた負荷が加わるようになります。
症状の現れ方
漠然とした、頸部、肩にかけてのこりや疼痛が主な症状です。 
検査と診断
X線検査で加齢的変化がみられれば変形性頸椎症という診断はできます。しかしその場合は、神経根の症状や脊髄(せきずい)の症状がないことが前提です。明らかな神経症状がある場合、すなわち脊髄症が起こっていれば頸椎症性脊髄症ですし、明らかに椎間関節性の疼痛であれば、頸椎椎間関節症という診断になります。 
このようなはっきりした診断名がつかなくて頸部や肩のこりや疼痛がある場合に、変形性頸椎症という診断がつきます。本症の診断で最も大切なことは、重い病気がないことを確認することです。
治療の方法 
変形性頚椎症自体は、とくに心配のない疾患であり、前述のように除外診断的な診断です。日常生活に気をつけることで症状はかなり改善されます。姿勢を正し、同一姿勢を長時間続けないように気をつけます。また、肩や首の筋力アップのための体操を習慣づけます。
 実際には行きを吸いながらゆっくり両肩を上げ、息を吐きながら下げる「肩の上げ下げ運動」や、手で頭を押しながら、それに抵抗するように前後左右に頭を倒す「抵抗運動」などの体操を行います。 
こりや痛みの強い場合は、非ステロイド性消炎鎮痛薬や筋弛緩(しかん)薬、湿布薬などを投与して経過をみます。
病気に気づいたらどうする
肩こりはありふれた症状ですが、重い病気の症状として現れることもあります。同じ場所のこりや痛みが長く続いている時は、整形外科を受診してください。また、変形性頸椎症からさらに神経根や脊髄を圧迫して頸椎症性神経根症、あるいは頸椎症性脊髄症になる場合は、痛みだけではなく手や足の運動障害なども生じるようになるので、注意が必要です。

 

4.「腰椎(ようつい)椎間板(ついかんばん)ヘルニア」

どんな病気か
腰椎は、背骨のうちで腰の部分を構成する骨で、5つの椎(つい)骨(こつ)からなります。上から第1腰椎、第2腰椎と呼び、いちばん下が第5腰椎です。それぞれの間には椎間板が挟まっています。
椎間板は椎骨と椎骨の間でクッションのようなはたらきをします。その構造は、中心部に髄核(ずいかく)と呼ばれるゼリー状の物質があり、それを取り囲むように線維輪と呼ばれる丈夫な組織があります。髄核はボールベアリング、線維輪はバネのはたらきをしています。 
この椎間板の線維輪に亀裂が入り、なかの髄核が飛び出して神経を圧迫した病態が、腰椎椎間板ヘルニアです。
原因は何か
椎間板の年齢的な変化(変性)が基盤にありますが、それに腰椎への運動負荷が加わることにより起こります。腰椎椎間板の変性がある程度すすみ、なおかつ腰椎への運動負荷の多い年代としては、頸椎椎間板ヘルニアよりも若く、20~40代が好発年齢になります。
症状の現れ方
初期は腰痛のみのことが多いのですが、次第に脚の痛みやしびれを伴ってきます。腰痛と左右どちらかの脚の痛みを現すことが多いのですが、ときに両脚のしびれを来すことがあります。若年者の腰椎椎間板ヘルニアでは、脚の症状がなく腰痛のみのこともあります。さらに症状が進むと運動神経も障害されるようになり、脚の筋力が低下します。排尿障害、排便機能の異常が現れることもあります。
検査と診断
理学所見により、どの神経が圧追されているのか、おおよその予想は可能です。すなわち坐骨(ざこつ)神経痛があるかどうかの診断は可能ですが、坐骨神経痛を起こしている原因が椎間板ヘルニアかどうかは、身体所見からだけではわかりません。通常のⅩ線検査でも、主に骨の情報しか得られないため、CTやMRIで椎間板ヘルニアを確認します。
治療の方法 
 保存療法が原則です。痛みに対しては薬物療法、理学療法、やや特殊な治療として神経ブロックが行われます。
薬物療法では非ステロイド性消炎鏡痛薬、筋弛緩(しかん)薬、神経賦活(ふかつ)薬などが用いられます。理学療法では、安静の目的でコルセットの装用や牽引(けんいん)が行われます。また、局所麻酔薬を使用して神経ブロックも行われます。 
腰椎椎間板ヘルニアは10年で約70%の症例は治癒するといわれています。しかし、脚の運動麻痺や排尿障害などが現れるなら、手術治療をしなければなりませんし、保存治療が効かない場合も手術治療が行われます。 
手術は「後方椎間板切除術」という方法が用いられます。背中側から切開してヘルニアを摘出し、神経への圧迫を取り除きます。最近では、顕微鏡や内視鏡を用いて切開部分を小さくする方法もあり、状況に応じて選択されます。そのほかに切開しない方法として「経皮的髄核摘出術」や「レーザー治療」が行われることもありますが、適応は限られます。
病気に気づいたらどうする
腰痛だけではなく、脚の痛み、とくに膝よりも先まで痛みがある場合は、整形外科を受診してください。

 

5.「腰部(ようぶ)脊柱管(せきちゅうかん)狭窄症(きょうさくしょう)」

どんな病気か
腰椎(ようつい)の脊柱管が狭くなる病態を示すものです。そのなかを通っている神経が圧迫されることにより、腰痛や脚のしびれなどのさまざまな症状が出てきます。
原因は何か
生まれつき脊根管が狭いことが素因になりますが、だからといって必ず症状が出るものではありません。こうした素因に、加齢による変形性腰椎症や腰椎すべり症が加わると、脊柱管の狭窄状態が起こり、神経が圧迫されることになります。
症状の現れ方
特徴的な症状は「間欠性(かんけつせい)跛行(はこう)」です。間欠性跛行とは、歩き始めはとくに症状が強いわけではないのですが、しばらく歩くと脚が痛くなったり、しびれたり、こわばったりして歩くことができなくなる状態を指します。重症の場合は50mも歩かないうちに症状が強くなって歩けなくなったり、5分程度立つだけでも症状が出たりします。 
しゃがんだり座ったりすると症状はすぐになくなり、また歩いたり立ったりできるのが特徴です。これは立つことで構造上、脊柱管がいっそう狭くなり神経を圧迫するためで、体が前かがみになると脊柱管がやや広くなり、神経圧迫は解除されて症状はなくなります。
検査と診断
X線検査やMRIで腰部の脊柱管狭窄があるかどうかを診断しますが、狭窄があるから症状が必ず出るとは限りません。本当に脊柱管狭窄症が原因であるかどうかを確かめるためには、他の病気と鑑別する必要があります。 
この病気は高齢者に多いために、変形性膝(しつ)関節症のような脚の関節の病気や、閉塞性動脈硬化症のような血管の病気でも同様な症状が出ます。これらの病気を除外し、さらには腰椎の神経ブロックにより一過性にでも症状がとれることが確認できれば、診断が可能となります。

治療の方法 
神経を圧迫するような動作や姿勢を避けることです。背中を反らせる姿勢は、脊柱管をより狭くして神経を圧迫するので、脊柱管を少し広くするためには、歩く際に前かがみの姿勢を心がけます。杖やカートを使ったり自転車に乗るなど、日常生活を少し工夫することでかなり症状を軽減できます。
 痛みをとるためには消炎鎮痛薬や血流改善薬などが使用されます。薬で痛みが改善しない場合は、神経ブロックが有効です。神経ブロックを数回行うことで症状が消えることもあります。薬や神経ブロックを中心に、さらにコルセットを装用したり、牽引(けんいん)や温熱慮法を併用して治療します。このような治療を3カ月ほど行っても症状が改善しない場合は、手術的治療を考えます。 
手術的治療の基本は、狭くなっている脊柱管を広くして神経の圧迫を取り除くことです。手術方法は、「開(かい)窓術(そうじゅつ)」、「椎(つい)弓(きゅう)切除術」「脊柱管拡大術」などがあり、神経の圧迫のされ方により選択されます。
病気に気づいたらどうする
前述の間欠性跛行がある場合は、整形外科を受診することです。年齢のせいだろうと放置すると、どんどん症状が進行することがあります。とくに両脚のしびれや麻痺がある場合は、重い症状であるという認識が必要です。

 

6.「腰椎(ようつい)分離(ぶんり)・すべり症(しょう)」

どんな病気か
腰椎分離症は腰椎の骨の一部が離れてしまうもので、腰椎すべり症は腰椎の位置がずれたものをいいます。腰椎が不安定になって、神経を刺激して腰痛の原因になることがあります。
原因は何か
腰椎は、前半分の椎体(ついたい)と、後ろ半分の椎(つい)弓(きゅう)からなります。椎体と椎弓の間には椎(つい)弓(きゅう)根(こん)があります。腰椎分離症は椎弓の部分で腰椎が分離してしまう病態です。ほとんどは子どものころにスポーツなどで繰り返し負荷がかかったために、疲労骨折を起こしたものと考えられていますが、すべての人が分離症になるわけではなく、体質的な要素もあります。
腰椎は、正常では軽く前方に弯曲(わんきょく)しています。下の腰椎は、椎間板(ついかんばん)や椎間関節によって、すぐ上の腰椎がずれないようになっていますが、椎間関節の形や椎間板の変性によって上の腰椎を固定しにくくなり、ずれが生じます。これを「腰椎変性すべり症」といいます。
一方、腰椎分離症でも下の腰椎がすぐ上の腰椎を制動することができなくなり、ずれが起きます。これを「腰椎分離すべり症」といいます。両者とも、すべってずれが大きくなると、神経を刺激したり圧迫するようになります。
症状の現れ方
最も多い症状は腰痛です。長時間の立ち仕事や、同じ姿勢を続けたり重労働のあとに痛みが強くなります。鈍く重い痛みで、体を後ろに反らせると痛みが強くなります。また、脚の痛みやしびれが出ることもあります。すべりが強くなると脊柱管(せきちゅうかん)が狭(きょう)窄(さく)し、腰部脊柱管狭窄症の症状である間欠性(かんけつせい)跛行(はこう)が出ます。
検査と診断
X線検査を行えば、腰椎分離症も腰椎すべり症も診断できます。しかし分離やすべりがあっても、必ずしも症状を現しているとは限らないので、注意を要します。その他の画像検査としてCTやMRIがありますが、これらは主に手術を前提に神経の圧迫の状態を調べたり、分離部を明瞭に観察するために行うことが多くなっています。
治療の方法 
保存治療には、装具療法、薬物療法、理学療法、ブロック治療などが
あります。 
保存治療の基本は安静で、コルセットを装用して動きを制限することもあります。薬物療法では、疼痛に対して消炎鎮痛薬や筋弛緩(しかん)薬を用います。そのほか、神経の修復を助けるために神経賦活(ふかつ)薬や末梢循環改善薬なども用います。   
理学療法では、温めることで末梢の血液循環がよくなり疼痛が改善するので、温熱療法も用います。やや特殊な方法として、神経に局所麻酔薬を注射する神経ブロックがあります。神経ブロックは初回は治療的な意味もありますが、現在の痛みが確かに腰の神経が圧迫されて生じているためであるという診断的な意味でも用いられ、その他の腰痛を来す内臓疾患との鑑別に用いられます。 
これらの保存治療でも症状が改善しない場合は手術療法が行われます。腰椎分離症には、分離部の固定術が行われます。腰椎すべり症では、すべっている椎間の固定術を行います。固定術は骨盤などから自分の骨を移植する場合と、人工骨を用いる場合があります。また症例によっては、固定の補助として金属製の器具を使う場合もあります。

 

7.「腰痛症(ようつうしょう)」

どんな病気か・症状の現れ方
あまり強くない腰痛があり、時にそれが強くなったり楽になったりを繰り返すもので、腰痛だけが主な症状です。激しい腰痛は少ないようです。
原因は何か
原因が特定できない腰痛で、非特異的腰痛ともいわれます。日常生活での不良姿勢による腰の筋肉の疲労が原因です。腰椎(ようつい)周囲の筋力が弱く、適切な姿勢が保持できなかったり、腰椎周囲の筋肉に過度の負担がかかることが、腰痛の原因になります。
検査と診断
問診と診断所見を中心に、X線検査などの画像診断による除外診断になります。ほかに特定すべき疾患がないことを確認し、他の重大な病気を見逃さないようにして腰痛症という診断がなされます。

治療の方法 
主に、日常生活動作の改善、腰痛体操などの治療が行われます。非ステロイド性消炎鎮痛薬や筋弛緩(しかん)薬が適宜使用されることもありますが、多くの場合、日常生活動作に注意するだけで腰痛はかなり改善します。腰痛の再発防止のためにも腰痛体操は大切です。
①日常生活の注意点
 重いものを持ち上げる際は、できるだけ体に引きつけて持ち上げます。おなかから対象までの距離を短くすることで、腰背部の筋肉にかかる負担は小さくなります。椅子に座る場合は、腰椎の前弯(ぜんわん)を減少させるために、膝の高さが臀部(でんぶ)の高さよりやや高くなるようにするか、膝を組んで座るようにします。 
立ち仕事の場合は、腰椎の前弯防止と筋肉の疲労を軽減させるために、足台を使うようにします。骨盤を水平に保つことで腰椎の前弯を減少させ、腰部の筋肉の疲労を減らすことができます。                   
  いずれにせよ、同じ姿勢を長時間とり続けないようにすることが大切です。
②腰痛体操
腰痛体操の目的は、①不良姿勢の改善、②腹筋・背筋の強化、③軟部組織の柔軟性の獲得があげられます。図63に示すように4種類の腰痛体操があります。なお、腰痛が強い時は、腰痛体操を行わないのが基本です。 
Aの体操は、腹筋、殿筋、ハムストリングス(大腿部後面の筋肉)に力を入れるようにします。腰が浮かないようにしながら十分に力を入れたあとに力を抜きます。この運動による不良姿勢の改善は、腰椎の前弯を減少させ、腰背部の筋肉に対する負荷を小さくさせます。 
Bの体操は腹筋の強化を目的にしています。これにより腹腔内圧を上昇させ、自らの筋肉によるコルセットをつくるようなもので、脊椎の安定性を得ることができます。膝関節と股関節は屈曲して行うようにします。膝関節と股関節をまっすぐに伸ばしてこの運動を行うと、逆に腰椎の前弯が増強してしまうからです。また、腹筋力強化には必ずしも上半身を垂直位まで起こすことはなく、肩が少し浮く程度で5秒ほど姿勢を維持すればよいでしょう。
 Cの体操は、腰背部のストレッチで腰椎周囲の軟部観織の柔軟性を得るために行います。腰痛症では腰背部の筋肉が拘(こう)縮(しゅく)を起こしていることが多く、急に体を前かがみさせると腰痛を生じやすいので、このストレッチは大切です。 
Dの体操では、背筋の強化を行います。下腹部に枕を置いて、これを支点に腰背筋の反り返り運動をします。強く反り返る必要はありませんし、枕が大きすぎると腰椎の過度の屈曲が起こり、痛みを誘発させることがあるので注意します。 
A~Dの体操のうち2~3種類を選んで、朝・晩の1日2回それぞれ5~10回程度から開始して、状況に応じて種類と回数を増やしていくことが大切です。
病気に気づいたらどうする
腰痛症であれば、ちょっとした日常生活の注意で痛みが軽くなる可能性があります。また、単なる腰痛でも重い病気の初期症状であることもあります。整形外科を受診してください。

 

 

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山口大学大学院医学系研究科整形外科学